スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2023 東京公演 ライブレポート

スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2023
東京公演 ライブレポート
スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2023 LIVE REPORT

登場を告げるジングルが鳴るたびに沸き起こる歓声、MCに送られる声援や笑い声、そしてバンドサウンドにも掻き消されない大音量のシンガロング──。『スペースシャワー列伝』が"帰ってきた"、そう実感する瞬間ばかりだった。もっとも、"帰ってきた"というのは観る側の視点であって、出演する4バンドにとってはもちろん初めてで、一度きりのツアーだ。その最終公演、進境著しい彼ら/彼女たちの、今この瞬間を刻みつける鮮やかな4本のライブを、Spotify O-EASTで観た。



帝国喫茶

帝国喫茶 帝国喫茶

一番手は帝国喫茶。逆光によるシルエット状態から4声のハーモニーを響かせ始まる、「貴方日和」からライブをスタートさせる。クリーンなサウンドと弾むような曲調による和やかな立ち上がりも束の間、2曲目の「季節すら追い抜いて」で、タイトル通りのスピード感とともに歪んだ爆音を開放。荒々しくギターを掻きむしりながら、杉浦祐輝(Gt/Vo)が吠える。「早速ですが......」とyutoriの佐藤古都子(Vo/Gt)を呼び込んで演奏したのは「君が月」だ。杉浦のアカペラの歌い出しにサビで古都子が加わり、そこからは交互に歌ったり歌声を重ねたりと、スケールの大きな楽曲により一層のドラマ性をもたらす。

帝国喫茶 x yutori

ソングライターが複数いるバンドだけに楽曲のテイストは様々で、しかも1曲の中でも展開の妙を味わえるのが帝国喫茶の特徴。パンクやエモの爽快感と直球のメロディを持つ「じゃなくて」は、サビ終わりで"第2のサビ"とでも呼びたいフレーズが入る変則的な構成が滅茶苦茶効いていた。MC等での掴み所のないキャラクターとは裏腹に、楽曲ではがっしり掴んで離さない。ラストの「春風往来」では杉浦がハンドマイクでステージ端の柵に乗ったり、ステージ上に這いつくばったりと暴れながら歌い、演奏後にはベースの疋田耀までもが力尽きたように倒れ込むほどの、白熱のアクトを展開した。



yutori

yutori yutori

2番手に登場したyutoriは、古都子のウィスパー混じりの静かな歌い出しから、迫力満点のエッジの効いたサウンドを叩きつける「音信不通」から。原曲よりもバンド感が格段に増した「センチメンタル」を終えると「ツアーファイナル、良い時間を。よろしくどうぞ」と手短に挨拶して「モラトリアム」に繋ぐ。囁いたり呟くような中低音の歌声に感じる深みからエモーショナルなハイトーンまで、卓越した歌唱力を発揮する佐藤に目が行きがちだが、何度も向かい合って呼吸を合わせながら演奏するバンド全体の音もパフォーマンスも、バンドの醍醐味を体現しまくっていて痛快だ。

即効性の高いサビで始まるキラーチューン「君と癖」を終えたところで、古都子のMC。ツアーが始まるまで「他の人といるのはしんどいな」と思っていたという彼女は、共にライブを重ねていくうち、他バンドのメンバーと食事に行ったりラウンドワンに遊びに行くまでになったことを語り、彼らを「大切な人たち」と呼んだ。そして、あと1曲演奏すると自分達の『列伝ツアー』は終わってしまう、まだ終わりたくないと声を震わせる。「わたしたちを『列伝ツアー』に出させてくれてありがとう」という叫びに大きな拍手が送られる中での最終曲「煙より」は、名残惜しさを轟音で押し包み、猛然とかつキレッキレに音を合わせていく名演であった。



プッシュプルポット

プッシュプルポット プッシュプルポット

3番手はプッシュプルポット。登場するや「みんな、来てくれてありがとう」と笑顔で両手を広げてみせた山口大貴(Vo/Gt)。そこから4人が向き合いジャーンと一発ならすやいなや、フロア前方はたちまちモッシュピット状態に変貌した。「こんな日々を終わらせて」に始まり猛スピード&フルスロットルで畳み掛け、それを受けたオーディエンスの投げかけるどデカい歌声も熱量も、どっしり受け止める度量の大きさを感じるのが良い。「行けるか!」とか「行こうぜ!」などと度々フロアに投げかける山口は、他にも色々言っていたが、何しろ音がデカいのであんまり聞き取れない。でもそれでいい。それがいい。

プッシュプルポット x カネヨリマサル

カネヨリマサルのちとせみな(Vo/Gt)を呼び込んでコラボした「ダイナマイトラヴソング」で、男女ごとのコール&レスポンスを織り込げたりと盛り上がりに拍車をかけた後には、4組がツアーを通して仲良くなっていく過程や、ステージ裏での人間性が見えたことが「めっちゃよかった」と語り、それを「新しい居場所」と形容。その"居場所"のかけがえのなさを、「2011年3月11日、14:46。あの時の歌」との言葉を添えた「13歳の夜」で歌い、そこから「笑って」へと繋いだ展開はこの日のハイライト。決して無責任ではないポジティヴィティとメッセージは彼らの強烈な推進力だ。ラストスパート......というかずっとスパートしていたライブは「最終列車」で締め括られた。



カネヨリマサル

カネヨリマサル カネヨリマサル

公演ごとに出演順の変わるこの『列伝ツアー』、ファイナルのトリはカネヨリマサルだった。ドラムセット前で集まって一言二言交わしてから、ライブはスタート。話す調子とあまり変わらない平熱なトーンでの弾き語りから始まる「ラクダ」で、3人の音が合わさった瞬間、低重心のバンドサウンドがズドンと放たれる。その迫力とは対照的にメンバーはみな笑顔をのぞかせながら、溌剌とプレイ。フックの効いた歌い出しと歯切れ良いギター、歌うベースにたくましいビートが一体となった「ひらりとパーキー」に続いては、リリースされたばかりの新曲「わたし達のジャーニー」へ。どの曲にも、ある種の人懐っこさとセンチメンタルが入り混じっていてクセになる。

ガラガラのライブハウスでやっていた時代から「わたしたちと一緒に戦ってきた曲」という紹介から「もしも」を、息の合ったアンサンブルと立体的なグルーヴで届け、後半へ。憧れのバンドがかつて出ていた『列伝ツアー』に出演するのが夢であったこと、それを実現できたことへの感謝を告げたちとせは、これからもずっと夢見て生きようと思う、それはカッコいいバンドでいること、カッコいいバンドをすることなのだ、と宣言。その言葉通りにストレートなギターロック「はしる、夜」まで、勢いよく駆け抜けいった。



スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2023 LIVE REPORT

来年以降の『列伝ツアー』に向け「音楽でバトンを渡して帰ります!」と、アンコールでは「グッドバイ」が演奏された。曲中、ちとせの「全員集合!!」の声に応え、他3バンドのメンバーが、ボーカル勢はマイクを、それ以外はタンバリンやマラカス、小さい太鼓など様々な鳴り物を手に登場。いつの間にかドラムがプッシュの明神竜太郎にチェンジしていたりと、祝祭感いっぱいのフィニッシュとなった。

同時代を生きる出演バンドたちが刺激しあい、仲を深め合ったであろうことは、アンコールでの光景やyutori・古都子のMCからも明らかだった。そして4組それぞれの個性と強みが存分に発揮され、「ワンマンだとどうなるんだろう?」と気になるライブばかりだった。きっとこれを機に新たなリスナーを獲得し、今後の活動への足がかりとなっていくことだろう。彼らの"いまこの瞬間"、2023年の『列伝ツアー』はあっという間に終わりを迎えたが、それぞれのバンドストーリーはこれからも続く。まだまだ始まったばかりなのである。

スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2023 LIVE REPORT

文=風間大洋
写真=タカギユウスケ



PHOTO GARALLY